語りsis

言葉と私

語りsisのメンバーふたりと、グループとしての自己紹介を“言葉”にまつわる部分で綴ってみました。
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志満本けい

昔、芝居をしていました。台本の平べったい台詞を3次元の世界に呼び出し、命を吹き込む面白さに夢中になりました。この人物は何をどう考え、どう感じる人なのか。どういう癖があり、どんな声でしゃべるのか。それを想像し、創造することが楽しくてなりませんでした。

その後、役者から訳者に転向しましたが、それができたのは、台詞に生(なま)の声を与える作業が英文に日本語の魂を与える作業とよく似ていたからです。原文の作者の思考経路を綿密にたどりつつ、最も近い感触を持つ日本語に置き換えていく……。ところがこれは実のところ役者の仕事ではなく“演出家”の仕事でした。私にとってのこの大発見は、朗読にもそっくり当てはめることができます。

朗読は作家が選び抜いた言葉に声を与える作業。声は朗読者の声ですが、その声を出させるのは作家の言葉、心です。朗読者の意識の中に作家の心を敏感に察知し、客観的に指示を出す演出家もいなくてはなりません。その一人二役、いえ“黒子”の役も含めて三役を支障なく務められるよう常に奮闘しています。


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林 ゆみ

言葉は独自に変化していくものですが、その言葉に伴って私たちの行動もまた変わってくるような気が致します。言葉に行動が付いてくる、とでも申しましょうか。美しい日本語を使えれば、立ち居振る舞いもそれにふさわしい美しさを纏うようになる、と。

そう考え始めたのが、近代の日本文学をじっくり読み直してみようと思ったそもそものきっかけです。そうして作品を読んでいくうちに、作家が言葉の一つ一つを紡ぎながら作品を作り上げていく、その過程をたどるようにして作品の理解を試みるようになりました。それには黙読でスーッと読み進んでしまうのはなく、声に出して読むことが役立ちました。例えば、そのセリフがどのような状況下で発せられたのかを想像しながら音色を変えたり、強弱を変えたり、セリフの当人の精神状態に思いを馳せて声にしてみる。

それはたいへん難しいことではあるのですが面白くてたまらず、どんどん引きつけられて、気づくと朗読の世界に深入りしておりました。こうして深みにはまったからには、作家の作品に対する心を、聞いてくださる皆様の心にお届けするために、今はいかにして私心を消せるかが課題だと思っております。


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語り sis

一口に朗読と言っても実にさまざまです。朗読の目的や対象が変わればマイクや動作の有無など朗読形態も違ってきますし、もっと基本的な部分では原作に取り組む姿勢、声の使い方、読み方などの様式や信条が微妙に異なるいくつもの“流派”が存在します。そんななかで志満本と林はすばらしい師にめぐり合い、その師の教えを守りつつ実践の場でも研鑽を積もうと「語りsis」を立ち上げました。

「語りsis」の名称は英語の catalysis、つまり「触媒作用・反応」にちなんでいます。私たちの役割は作家の言葉が聴き手の心に引き起こす反応を促進することです。作家が文字に託した心を捉え、聴き手の“耳”に届けます。聴き手の心に作家の言葉が響いて共鳴したなら「語りsis」の任務は完了。また次なる作家の言葉と心を届けるために日々、精進を重ねます。